研究概要 |
平成20年度は、チオレドキシン様ダイニン軽鎖であるLC3, LC5の基質タンパク質の精製からスタートした。まず、LC3, LC5に、生体内で基質をトラップするための機能ドメインへの変異導入を行い、クラミドモナス野生株細胞で発現させた。すると確かに、変異LC3, LC5は基質を生体内でトラップした。鞭毛軸糸のような巨大タンパク質複合体からのLC3/LC5-基質という微量複合体のタンパク質精製は困難を極めたが、「SDS変性+SDSミセル化によるクエンチングをしたのちに免疫沈降をする」という方法を確立し、少量精製に成功した。現在、質量分析に足る量を精製するためにさらに方法を改良しているところである。 さらに、第3のレドックス感受性ダイニンサブユニットであるDC3についても、変異導入の後、クラミドモナスのDC3欠失株において発現させることに成功した。これについても、生体内で基質をトラップしていることを確認し、これから基質の精製に入る。 これと並行して、鞭毛・繊毛を持つ細胞がレドックス調節を受ける意義を探るため、クラミドモナス細胞をさまざまに酸化・還元薬剤処理をしたところ、走光性の正負がレドックスで決定されていることを見出した。このことは細胞運動を利用したレドックス・ホメオスタシスを反映していると考えられ、上のLC3, LC5, DC3の活性との関連を調べているところである。この発見は、葉緑体・ミトコンドリアの活性クロストークや酸化ストレス防御の領域に限られた研究であったレドックス・ホメオスタシスが、モータータンパク質の活性という生物物理学的領域にも関係することを示した最初の例であり、広い波及効果が見込まれる。
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