骨吸収を担う破骨細胞は骨代謝維持に重要であり、その分化・活性化異常は、骨粗鬆症などの骨関連疾患の主要因である。破骨細胞の分化・活性化は、受容体RANK及びそれに結合するTRAF6によって制御される。申請者は、TRAF6シグナルの増強を担い、破骨細胞形成に必須であるRANK細胞質領域HCRを発見したが、HCRを介したシグナル伝達機構は不明である。昨年度、申請者はHCR結合因子としてアダプター分子Gab2を同定した。さらに、RANKはHCRを介してGab2、PLC-γ2、TRAF6を含むシグナル伝達複合体を形成し、その形成を維持させることでTRAF6シグナルを増強する可能性を見出した。本年度は、HCRペプチドを用いて、HCRを含むタンパク質複合体を破壊することで、人為的な破骨細胞形成の抑制を試みた。さらに、HCRペプチドを利用しGab2以外の新たなHCR結合因子の探索に取り組んだ。62アミノ酸残基からなるHCRペプチドを、破骨前駆細胞にレトロウイルスベクターを用いて強制発現させたところ、RANKL刺激による破骨細胞形成を顕著に抑制した。HCRペプチドの発現は、RANKL刺激によるNF-κB、MAPKの活性化、分化のマスター転写因子NFATc1の発現誘導を阻害したことから、HCRペプチドはHCRシグナル複合体の形成を阻害する可能性が示唆された。したがって、HCRシグナルは骨疾患治療の新たな標的になることが示された。一方、FLAG-tag及びHis-tagを付加したHCR(TAP-HCR)を安定的に発現させたRaw274細胞を樹立した。この細胞はRANKL刺激による破骨細胞形成が顕著に抑制されたことから、内在性RANKのHCRに結合する因子がTAP-HCRに結合していると考えられる。現在、この細胞を用いて、TAP法によりHCRペプチドを含むタンパク質複合体の精製を進めている。
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