脂肪滴はリン脂質一重層によって覆われた細胞小器官であり、生体内の脂質恒常性に重要な役割を果たしている。脂肪滴の機能にはその表面に存在するPATファミリーが重要であり、我々が見出したタンパク質MLDP(myocardial lipid droplet protein)を含め、5つのメンバーが報告されている。MLDPは心臓で高発現しており、脂肪酸酸化が亢進する条件下で発現が上昇する。よってMLDPは脂肪の積極的な消費を規定する因子であるという仮説を立て、これを証明するためにノックアウトマウス(KO)を作製し、解析を行った。 KOマウスの外観は野生型(WT)と差はなく、体重や成育についても有意な差はみられていない。 各種脂肪滴タンパク質の発現量を検討したところ、PATファミリーであるADRPがKOの心臓において減少していた。また、血漿の生化学検査から、KOでグルコース量が減少することがわかった。 脂肪滴の形態的変化を調べるために、心筋および肝臓の電子顕微鏡観察を行った。その結果、KOの心筋では脂肪滴が全く検出されなかった。よってMLDPは心臓の脂肪滴の形成において必須な因子であると考えられる。一方、肝臓については脂肪滴の数、大きさに顕著な差はみられなかった。また電顕観察によりWTとKOでグリコーゲン量に差があることが示唆されたため、生化学的にグリコーゲンを定量した。結果としてKOの心臓でグリコーゲンが増加し、肝臓で減少していることが分かった。これらの結果はMLDPの欠損が生体内の糖代謝にも影響を与えていることを示唆している。 MLDP欠損マウスの解析は、心臓における脂肪滴の生理的機能の解明につながると考えられ、さらに細胞のβ酸化活性や、個体の運動量の変化などについて検討を進める必要がある。
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