細胞内脂肪滴は生体の脂質ホメオスタシスを制御する細胞小器官であり、その機能は脂肪滴表面に存在するタンパク質が担っている。申請者は、心臓の脂肪滴に選択的に存在する新たなタンパク質MLDP (myocardial lipid droplet protein)を見出し、その生理的機能の解明を目的としてMLDPノックアウトマウス(KO)を作製し、解析を行っている。これまでに、MLDP KOマウスの心筋において脂肪滴が完全に消失していることが明らかとなり、MLDPが心臓の脂肪滴の形成において必須な因子であることが示唆される。本年度はMLDP欠損マウスの表現型解析として、初代培養細胞を用いたβ酸化活性の測定や、マウス運動量の変化について検討を進めた。野生型マウス(WT)およびMLDP KOマウスの心筋より初代培養細胞を調製し、脂肪酸のβ酸化活性の測定を行ったところ、KOで活性が高い傾向がみられた。また、肝臓の初代培養細胞においても同様の結果が得られている。各マウスの自発運動量を測定したところ、KOの方がWTより運動量が有意に多いことが明らかとなった。しかし自発運動量は潜在的な運動能力、特に持久力を直接測定しているないので、次に強制運動量を測定した。その結果、KOの方がWTより走行距離が長く、持久力が優っていることがわかった。WTとKOでは脂肪酸の消費能に差異があり、その結果として運動量に差が現れている可能性がある。今後は、心筋における脂肪酸酸化活性を測定するとともに、耐糖能テストなど疾患との関連について検討を進める。 MLDPの機能解析と並行して、新たな脂肪滴局在因子の探索も進めている。MLTC-1ステロイド産生細胞より脂肪滴を単離しプロテオミクス解析を行ったところ、ステロイドホルモン合成に関わる酵素群が多数同定された。この結果は脂肪滴がステロイド合成の場として機能していることが示唆している。
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