申請者は新規脂肪滴タンパク質MLDPを同定し、その生理的機能の解明を進めてきた。今回は主にMLDP欠損マウスを用いて、以下の検討を進めるとともに、新規脂肪滴局在タンパク質の探索を行った。 (1)心筋初代培養細胞の解析-昨年度までにMLDP欠損マウスの新生仔の心筋初代培養細胞では、β酸化活性が亢進していることを見出した。本年度はその機構解明を進め、MLDPの欠損は脂肪酸の取り込みには影響せず、ミトコンドリアでの脂肪酸酸化を亢進させることがわかった。 (2)運動量への影響-MLDP欠損マウスにおいて運動量や持久力が亢進している可能性が示唆されていたため、本年度は巻き戻し交配により遺伝的背景を合わせたマウスを使用し、自発運動量、強制運動量の測定を進めた。結果として運動量に有意差は認められなかった。 (3)インスリン抵抗性への影響-MLDPの遺伝子欠損が糖代謝に影響するのか、耐糖能テスト、インスリン負荷試験により検討した。結果としてMLDP欠損マウスではグルコースクリアランスとインスリン感受性の亢進が認められた。心臓の脂肪滴の機能が糖尿病に関連すること示唆された。 (4)新規脂肪滴タンパク質の探索-ステロイド産生細胞であるMLTC-1ライディッヒ細胞を用いて脂肪滴タンパク質のプロテオミクス解析を行い、MLDPやステロイド合成酵素群を含む80種の脂肪滴タンパク質を同定した。ステロイド合成酵素は従来小胞体に存在すると考えられており、脂肪滴での役割について今後検討を進める。 本研究から、MLDPは心臓の脂肪滴の維持に必須の因子であることが判明し、その欠損がインスリン感受性に影響することを見出した。MLDP欠損マウスは心臓の脂肪滴の生理的機能と病態への影響を解明するための有用なモデルとなると期待される。
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