本研究は、CD44の切断に関わる低分子量ヒアルロン酸の産生機序を明らかにし、癌細胞自身によって形成される細胞外マトリクスのリモデリング機構がどのように癌細胞の運動能や浸潤能に影響を与えるかを明らかにするとともに、RNAiを用いたヒアルロン酸合成酵素(HAS)やADAMファミリーメタロプロテアーゼの特異的阻害が癌の浸潤転移抑制治療となりえるかについて検討を行うことを目的として行った。高浸潤性U251MG悪性グリオーマ細胞のHAS2およびHAS3RNAi安定発現株を樹立し、細胞外マトリクスに対する接着能および遊走能の変化について解析を行った結果、HAS2およびHAS3の発現低下により癌細胞の接着および浸潤を著名に抑制できることがわかった。またシグナル解析の結果、グリオーマ細胞ではヒアルロン酸合成を抑制することで、細胞の遊走や細胞の生存シグナルに関わっているPI3K-AKTのシグナルが特異的に抑制できることが分かった。またヒアルロン酸によって活性化されているPI3K-AKTのシグナルは、グリオーマ細胞浸潤に関わるCD44の切断機構とは独立した経路で制御されており、癌細胞におけるヒアルロン酸合成の抑制は癌の抗がん剤耐性能および浸潤能をともに抑制すると考えられ、有効な治療のターゲットとなりうると考えられた。またヒアルロン酸合成酵素HAS2およびHAS3のRNAi安定発現株を樹立し癌細胞の浸潤能を解析した結果、それぞれのHASを発現抑制することで癌細胞のマトリクス内浸潤能を著明に阻害できた。これらHASおよびCD44をターゲットとすることで今後、癌転移に対する新たな治療の開発につながることが示唆された。
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