研究概要 |
本研究は、癌細胞自身のヒアルロン酸産生のなかでも特に、ADAM17を活性化し、CD44の切断を行っている低分子量ヒアルロン酸の産生機序を明らかにし、癌細胞自身によって形成される細胞外マトリクスのリモデリング機構がどのように癌細胞の運動能や浸潤能に影響を与えるかを明らかにするとともに、RNAiを用いたヒアルロン酸合成酵素(HAS)やADAMファミリーメタロプロテアーゼの特異的阻害が癌の浸潤転移抑制治療と成り得るかについて検討を行うことを目的とし、以下の研究を行った。 1癌細胞浸潤時に活性化されるヒアルロン酸合成メカニズムについての検討 浸潤性癌細胞株U251MG細胞を用いた3Dゲル内培養によって浸潤細胞におけるCD44切断を検出する方法を開発した。その結果、CD44切断はヒアルロン酸依存的細胞周囲マトリクスのリモデリングの促進に関与することで、浸潤性を獲得することを見出した。また、このヒアルロン酸依存的CD44切断を誘導するADAM17の発現抑制によってヒアルロン酸依存的細胞周囲マトリクスの蓄積を誘導し、3Dゲル内浸潤が抑制されることが分かった。また、CD44切断を阻害する薬剤をスクリーニングしたところ数種類の既存薬が見つかった。これらの薬剤はU251MG細胞の3Dゲル内浸潤およびヒアルロン酸のリモデリングを阻害することから、浸潤・転移阻害薬と成り得ると考えられた。 2胃癌自然発生モデルマウスを用いた腫瘍間質マトリクスの検討 胃癌自然発生モデルK19-Wnt1/C2mEマウスを用いて腫瘍間質マトリクスを検討したところ、腫瘍進展に伴うヒアルロン酸の蓄積が認められた。このヒアルロン酸の蓄積は、正常マウスへのプロスタグランジンE2投与でも同様に誘導でき,プロスタグランジンE2の阻害がヒアルロン酸が豊富に存在する腫瘍間質の形成に関わることが分かった。
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