本研究を開始する前に、静止期におけるプロテアソームの失活が、核の異常な膨潤と変形を引き起こして致死的となることが明らかとなっていた。 この結果を踏まえて、平成20年度は以下の解析をおこなった。 1. ユビキチン化タンパク質を精製、同定する手法の立ち上げ ヒスチジンタグを付加したユビキチンとFLAGタグを付加したユビキチンを染色体上から発現する分裂酵母株を作成した。Niビーズと抗FLAG抗体による二段階のアフィニティー精製をおこない、簡便にポリユビキチン化されたタンパク質を精製することができた。今後は、細胞の各画分から精製することを検討したい。 2. プロテオーム、メタボロームによる網羅的解析 野生株とのプロテオームの比較から、静止期のプロテアソーム失活がミトコンドリアタンパク質の減少を引き起こす事がわかった。変異体で増量したタンパク質には酸化ストレスで発現誘導されるものが多く含まれていた。メタボローム解析により静止期のプロテアソーム失活がグルタチオンとエルゴチオネインという抗酸化作用を持つ代謝物の蓄積をもたらす事がわかった。 3. 酸化ストレス蓄積 H2DCFDAによる染色により静止期のプロテアソーム変異体では核とミトコンドリアに酸化ストレスが蓄積していることが明らかとなった。 4. ミトコンドリアの大規模な分解 静止期プロテアソーム変異体ではミトコンドリアがオートファジー依存的に分解されていることが明らかとなった。ミトコンドリア分解を阻害すると酸化ストレスの異常な蓄積を伴う細胞死を引き起こした。 以上の結果から、酸化ストレスの蓄積によっておこる染色体や核構造物の障害が、プロテアソーム失活時の核異常表現型の原因である可能性がある。プロテアソーム失活による核内の酸化ストレス防御系破綻が引き金となり、蓄積された酸化ストレスがミトコンドリアを障害して連鎖的に酸化ストレス産生が亢進するという可能性が考えられる。
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