細胞が環境からシグナルを受容しゲノムに保存された遺伝子情報を選別する過程では、シグナルの種類に加えて細胞の応答性が重要である。本研究では、独自に単離した中胚葉特異的遺伝子であるnt1遺伝子が神経胚期に予定中脳・後脳境界部で異所的に発現するゼブラフィッシュ突然変異体(kt541)の解析を行い、ゲノム情報選択の分子機構を理解することを目指している。 kt541変異体でみられる脳での異所的なnt1の発現が、この領域でシグナルとして機能しているfgf8に依存することをアンチセンスモルフォリノオリゴによる機能阻害実験により明らかにした。また、クロマチンの高次構造がnt1の発現選択に関与している可能性について検討するために、ポリコーム遺伝子群のPSC1およびPha、Ez2について機能阻害実験を行った。それぞれの機能阻害胚では、発生過程で形態異常が見られたが、nt1の異所的な発現は観察されず、これらの遺伝子はnt1発現の制御に関与していないと思われた。 一方で、kt541変異体は温度感受性と優性の母性効果を示すことから、その原因遺伝子の同定は比較的に困難であった。しかし、kt541変異体と多くの多型を持つ別系統のゼブラフィッシュとを数世代にわたって交配し、変異部位近傍以外が別系統に組み変わった集団を確立し、変異部位の遺伝学的マッピングを行なった。その結果、第25番染色体の連鎖マーカーz15205からz1213の16.9cMに位置することが強く示唆された。今後、さらに詳細なマッビングを行うことによって候補遺伝子が絞り込まれていくことが期待される。
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