平成21年度には、ヤツメウナギ胚、スッポン胚を用いて、神経形成に関わる分子機構に関する研究を行った。ヤツメウナギでは昨年度に引き続き、Emx、Pax6、Coup-TFの発現パターンを解析した。またサメ胚を用いてCoup-TF1の発現解析を行った。その結果、ヤツメウナギのEmx発現ドメインが発生後期になると終脳側方に限局し、背側では発現しなくなることが判明した。このことはヤツメウナギの終脳背側と呼ばれてきた領域は他の脊椎動物のそれとは相同ではなく、ヤツメウナギで独自に発達した脳領域である可能性が示唆された。この結果は本研究の目的である「脊椎動物の終脳発生プランの進化過程の解明」に合致している。さらに、スッポン胚の終脳をラベルし、その神経回路を可視化しつつ、神経ラベルとIn situハイブノダイゼーションの同時二重染色を行った。その結果、スッポン終脳の最高中枢である背側脳室隆起(DVR)から視床に向けて発生期に延びる神経路が存在することを同定し、この経路がEphA4の発現ドメインを避けるように伸長することを明らかにした。このパターンはマウスで見られる皮質視床路と極めてよく似ており、爬虫類と哺乳類がそれぞれ独自でありながら機能的に収斂した神経回路をその終脳に持っている可能性が示唆された。上記の結果に関して論文を執筆中である。また、後脳から終脳への神経回路に関する知見を総合した総説を執筆し、それはNature Reviews Neuroscience誌に掲載された。これらの結果は21年度の研究計画の達成目標をクリアしている。
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