本研究は、カタユウレイボヤの熱ショック応答遺伝子(Ci-HSPA1/6/7-like)の転写制御領域を利用して、カタユウレイボヤ胚に最適化された遺伝子誘導発現系を構築することを目指している。今年度は次のような成果を得た。1、内在性のCi-HSPA1/6/7-likeの発現を指標に、初期胚の熱ショック応答能力を調べたところ、熱ショック応答能力は16細胞期以降に獲得されることがわかった。熱ショックにより誘導されたCi-HSPA1/6/7-likeの全ての細胞で検出された。2、Ci-HSPA1/6/7-likeの上流2kbpの領域の下流に目的遺伝子のcDNAを1組み込むことが可能なGatewayシステム対応ベクターを作成した。3、このベクターに目的遺伝子としてレポーター遺伝子を組み込み、胚に導入し、様々な発生段階で熱ショックを胚に与え、レポーターの発現を調べた。その結果、卵割期から神経胚期までの間に胚に熱ショックを与えた場合は胚の全ての種類の細胞でレポーターの発現が誘導されることがわかった。すなわち、この発生段階までに胚に熱ショックを与えることで、このベクター1から目的遺伝子を全身に発現させることが可能であることがわかった。一方、神経胚期以降の時期ではレポーター発現の見られる細胞の種類ぶ限定された。4、脊索運命の決定に働く転写因子の遺伝子を上記のベクターに組み込み、薬剤処理により脊索誘導を阻害した胚においてこのベクターを用いて過剰発現実験を行った結果、熱ショック依存的な脊索形成が確認された。このことは、胚発生に関係する遺伝子の機能解析を行う実験系として、本誘導発現系が有用であることを実証している。
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