本研究は、カタユウレイボヤの熱ショック応答遺伝子(Ci-HSPA1/6/7-like)の転写制御領域を利用して、カタユウレイボヤ胚に最適化された遺伝子誘導発現系を構築することを目指している。今年度は次のような成果を得た。1、Ci-HSPA1/6/7-likeが熱ショックにより誘導されるメカニズムを知るため、様々に改変したCi-HSPA1/6/7-likeの上流領域についてレポーターアッセイを行い、熱ショックによる誘導に必要な配列の同定を試みた。その結果、上流260bpから160bpの領域にある3つの熱ショックエレメントが熱ショックによる誘導に重要であり、このうち2つ以上を同時に欠損すると誘導が著しく阻害されることがわかった。この結果は、熱ショックエレメントを認識する熱ショック転写因子が他の動物同様にホヤにおいても熱ショックによる遺伝子発現誘導に関与している可能性を示唆している。2、昨年度に開発した熱ショック誘導用ベクター(Ci-HSPA1/6/7-1ikeの上流2kbpの領域の下流に目的遺伝子のcDNAを組み込むことが可能)による誘導発現の条件検討を行うため、レポーター遺伝子や初期発生で働く各種の遺伝子のcDNAを組み込んだベクターを用いて初期胚における誘導発現実験を行った。その結果、カタユウレイボヤ胚における目的遺伝子の誘導は18度から28度への温度上昇を10~60分間行う熱ショック処理で可能であることがわかった。本研究により、発生生物学研究のモデル生物であるカタユウレイボヤで利用可能な誘導発現系を初めて構築することができた。この系は、任意のタイミングで目的遺伝子を働かせる実験を可能とするものであり、ホヤにおける遺伝子機能解析に有用なツールとなることが期待される。
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