我々の体を構成する細胞は極性を持っている。この細胞極性は、たとえば体の内側-外側といった体軸の方向にあわせて適切に方向付けされている。極性の方向が乱れると機能的な体の構造を維持することが出来ず、がんなどの様々な疾患の原因になると考えられる。本研究の目的は、多細胞生物における、細胞極性の形成機構およびその極性の方向制御の分子機構を明らかにすることである。本年度は、全反射顕微鏡および蛍光相関分光法(FCS)を用いPAR-2タンパク質分子粒子一つ一つの動きを直接観察することに成功し、極性分子の細胞内動態を計測した。これまでに、線虫受精卵において非対称に局在するPAR-2タンパク質は、将来の前側と後側で細胞膜上への結合速度および乖離速度が異なっていることを明らかにした。また、細胞質に存在するPAR-2分子は共焦点顕微鏡を用いた観察では細胞内で対称に局在しているように見えるが、蛍光相関分光法(FCS)を用いた観察の結果、細胞質PAR-2タンパク質は将来の前側では2量体として、後ろ側では単量体として存在すること、および単量体で存在する後ろ側細胞質のPAR-2は拡散が前側より2倍程度遅いことを見つけた。これらのことは、PAR-2タンパク質は細胞質においても非対称に局在していることを示している。本研究課題により、これまでの遺伝学的な研究の枠組みを越え、新たに発生過程における細胞単離実験および細胞内のタンパク質動態の計測にまで踏み込んだ研究を進めることに成功した。これにより、細胞内でおこるタンパク質の非対称局在を物理、化学の枠組みで解析を行うための土台を作ることに成功した。
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