本研究課題は、Brachyury遺伝子(Bra)による後生動物に保存された細胞運動の制御機構について、クシクラゲ胚とツメガエル胚を用いて比較・解析するものである。これまでの研究から、Braの下流で発現を促進される分子として、purine-nucleoside phosphorylase (pnp)、X-delta-2、2種類のesr-related遺伝子(XL507g15exおよびXL324a06ex)が同定されている。平成22年度は、これらの分子の機能を明らかにするために、ツメガエル胚を用いた発現解析とモルフォリノオリゴ等による機能阻害実験を遂行した。まず、pnp、X-delta-2、1種類のesr-related遺伝子(XL324a06ex)は、Braの発現に重なるように、原腸胚の原口周辺に環状に発現することが分かった。X-delta-2とesr-rekated遺伝子はNotchシグナルの構成因子であり、特にX-delta-2はリガンドとしてNotchシグナルの上流で働く可能性が考えられる。そこで、X-delta-2のドミナントネガティブ型あるいはモルフォリノオリゴを用いた機能阻害実験を行ったところ、ツメガエル胚の原腸形成が阻害された。これらの結果から、NotchシグナルがBraの下流で細胞運動の制御に関与していることが示唆された。また、pnpの翻訳を阻害するモルフォリノオリゴの導入も、原腸形成を阻害することが分かった。クシクラゲ胚におけるpnpやNotchシグナルの役割についての解析は現在進行中である。さらに、野生型のツメガエルBraとクシクラゲBraを、ツメガエルBraの機能阻害型とクシクラゲBraの機能阻害型と比較する実験から、DNA結合ドメインであるT-boxドメイン以外の領域に、ツメガエルとクシクラゲにおけるBraの機能に違いがあることが示唆された。
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