恒温動物の温度環境適応に寄与した遺伝的な変化を解明するために下記の研究を行った。 1、非震え熱産生にかかわるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1型(CPT1)遺伝子の進化過程を調べる計画であったが、下記の3の研究課題において興味深い成果を得たためこのテーマを集中的に進めた。 2、非震え熱産生機構の発熱において中心的な役割を担うUCP1遺伝子はイヌに至る系統で進化速度が加速したことをこれまでの研究で明らかにした。本年度は進化速度が加速した時期をより正確に推定するためイヌ科のタヌキのUCP1遺伝子の塩基配列を決定した。哺乳類の複数種のUCP1遺伝子と比較したところ、進化速度の上昇はタヌキとイヌの共通祖先より以前に生じたことが明らかとなった。 3、ニシツメガエルと哺乳類のTRPV3はN-およびC-末端領域のアミノ酸配列が著しく異なることを昨年度までの研究で明らかにした。本年度はTRPV3イオンチャネルの機能がニシツメガエルと哺乳類で異なるかどうかを検討するために、ニシツメガエルTRPV3イオンチャネルの性質を検討した。アフリカツメガエルの卵母細胞にニシツメガエルTRPV3イオンチャネルを強制発現させ、二電極膜電位固定法によりイオン電流を測定した。その結果、ニシツメガエルTRPV3は哺乳類のTRPV3を活性化させる2-Aminoethoxydiphenyl borate(2-APB)により活性化された。次に、哺乳類のTRPV3は33度以上の暖かい温度で活性化されることが報告されているため温度刺激に対する応答を検討したところ、ニシツメガエルTRPV3は暖かい温度では活性化されなかったが、一方、16~18℃の冷涼な温度で活性化された。18~20℃以下の温度域はニシツメガエルにとって致死的であることから、TRPV3イオンチャネルはニシツメガエルと哺乳類の系統で活性化温度域がそれぞれの生物の特性に適合するように進化してきたことが示唆された。 哺乳類の暖かい温度の受容体であるTRPV4イオンチャネルの特性をニシツメガエルにおいて検討するため、発現ベクターの構築を行った。ニシツメガエルTRPV4コード領域全域を含むDNA断片をRT-PCRにより増幅し、発現ベクターに組み込んだ。
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