研究概要 |
自然環境の劣化が進む中, 植物の生育環境を考える上で, 窒素過多は大変大きな問題であり, 国連のミレニアム生態系アセスメントにおいても指摘されている. 本研究は, この富栄養化に注目し, 貧栄養湿地で自生するモウセンゴケ属植物の雑種形成による種分化と窒素環境との関係の分子生物学的な解明を目指している. 研究対象とするトウカイコモウセンゴケはモウセンゴケとコモウセンゴケの交雑起源種で, 東海丘陵要素の1つである. 報告者は, トウカイコモウセンゴケの自生地の水質がモウセンゴケの自生地に比べて富栄養であること, 及びトウカイコモウセンゴケが両親種と比較して富栄養培地で生育可能との知見を得ており, トウカイコモウセンゴケは富栄養環境に適応進化して, 「富栄養耐性の超越形質を得た」と想定した. 20年度は, (1) コモウセンゴケ自生地の水質調査と(2) 3種を窒素源と窒素濃度の異なる培地で生育させると共に, 対照区としてKCIを加えた培地での栽培を行なった. 観察項目は, 葉長, 花茎長, 開花期間, 種子の数と長さ, クローン増殖の測定, 株張りと枚数および葉内硝酸/亜硝酸イオン濃度の測定である. これらの結果, モウセンゴケの生育地の硝酸イオン濃度は〜10μMで, トウカイコモウセンゴケの生育地は〜200μMであるのに対し, コモウセンゴケの生育地は〜30μMであることが明らかになり, 現在までの調査では, トウカイコモウセンゴケの生育地の硝酸イオン濃度に最も幅があることが明らかとなった. また, 窒素負荷培養実験において, モウセンゴケ地上部は夏期に一時枯死するが, 窒素の添加により枯死が抑制される事が分かった. 本研究は, 1年に1度しか実験を行なうことができないので, 他の結果については, 来年度も引き続き同様の実験を進め, 再現性を確認した上で報告する.
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