研究概要 |
人間活動の影響による自然環境の劣化,それに伴う生物多様性の減少は,近年,国家,世界規模で問題となっており,その修復と再生が持続可能な社会を築く上で重要な課題となっている.本研究では,自然環境劣化の一因である「富栄養化」に注目し,貧栄養湿地で生育する「モウセンゴケ属植物」の雑種形成による種分化と窒素環境との関係について解析することを目的とした.これまでの研究で,モウセンゴケ類については、東海地方に自生する近縁3種間の窒素感受性の差異と生育環境との関係を示唆する結果を得ている。モウセンゴケ類の通常の生育条件下での硝酸還元酵素、亜硝酸還元酵素の活性は検出限界以下であり、硝酸イオンを培地に添加しても一般の植物で見られる活性誘導は起こらなかった。cDNAの取得も困難だったが、トウカイコモウセンゴケについて次世代シーケンサを用いて収集した.AtNR1の類似配列を基にしてMoco結合ドメインから下流のcDNA配列を取得した。この結果、モウセンゴケには94~99%の相同性をもつ複数のNR分子種があり、いずれも翻訳後活性抑制に関わるセリン残基を保持していることがわかった。以上の結果から、モウセンゴケ類の硝酸イオン感受性の原因として想定していた「硝酸還元酵素による亜硝酸イオンの過剰生産」の可能性は低いと結論した。
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