本研究では、他の大陸より果実生産の季節性が強い東南アジア熱帯林で、霊長類が種間でどのように資源を分割し共存しているのかを、生息地と食物という二つの資源の分割という観点から明らかにすることを目的として、マレーシア、サバ州のダナムバレー森林保護区での野外調査を主体として研究を行った。 本年度は調査成果のとりまとめを中心に行った。その結果、以下のことが明らかになった。(1)2年間の調査期間中、オランウータンは果実生産の上昇に伴って、数が増加したが、ほかの種はそのような傾向はなかった。オランウータンは、広域を放浪的に遊動し、その季節に果実が多い場所に集中していると考えられた。(2)食性は種間で重複が大きく、どの種も果実が主要な食物だったが、レッドリーフモンキーは新葉と種子が主要な食物だった。レッドリーフモンキーは、果実の利用可能性の増大に対応して、種子や果実の採食時間を増やし、新葉の採食時間を減らした。(3)利用する木の高さは重複が大きかつたが、テナガザルとカニクイザルが樹冠近く、ブタオザルが地上を利用する割合が高かった。 以上のように、5種の霊長類は遊動、食性、利用する木の高さなどを少しずつ違えながら共存していることが明らかになった。また、種ごとに果実生産の変動に対する反応が異なっており、これが複数種の共存に一定の役割を果たしていることが示唆された。 これらの成果は現在論文として公表準備中である。'Animal responses to general flowering and mast fruiting in Southeast Asian tropics'という国際シンポジウムを2010年3月開催に第57回日本生態学会大会で開催した。この研究成果について発表し、同じ東南アジア熱帯林に生息するほかの哺乳類や昆虫との比較を行った。
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