本研究の目的は、ヒトの顔面形態の個体差および集団差に関連する遺伝子多型を明らかにすることにある。また、形態に関連する遺伝子に働いた選択圧の強さなどを推定する。(i)本年度は、試料および生体計測データの収集のために多くの力を注いだ。顔面形態の測定のために、3次元デジタルスキャナと解析ソフトウェアを導入し、計測項目や方法について再検討をおこなった。倫理承認を得た上で、試料およびデータ収集を継続中である。(ii)文献やデータベース(Gene、OMIM)から頭部の発生や形態形成に関わる遺伝子および頭蓋顔面異形成の原因遺伝子を200遺伝子程度選出し、これまでのゲノムワイドSNPタイピングデータおよび大規模SNPデータベースを用いて、それらの遺伝子の人類集団間における分化を調べた。その結果、ヨーロッパ系集団とアフリカ系集団の間で、頭蓋顔面異形成に関与する遺伝子群がゲノム中の他の遺伝子と比べ、より分化していることなどが示された。したがって、これらの遺伝子の中に集団間の形質の違いを担う遺伝子も含まれていると推測される。また、頭蓋顔面異形成の遺伝子領域における多様性の減少を観察することで、正の選択の有無を検証した。これらの結果をもとに、今後の関連解析において対象とする遺伝子を選定した。(iii)既存の試料を用いて、歯や毛髪の形態について遺伝子関連解析を行い、幾つかの遺伝子がこれらの形質と関連していることを見出した。歯や毛髪の形態と関連がみられた遺伝子が他の部位の形態とも関連しているのかなども含めて、今後さらなる関連解析を進めていく。
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