研究概要 |
今年度は筋弾性がランニング中のエネルギー消費節約機構に及ぼす影響について検討を行った。被験者は陸上競技歴のある男性8名であった。身体後背部に重量物を付加すると、脚筋では筋弾性が高まる(Bourdin et al.1995)。しかしながら、Abe et al.(2004,2008a,2008b)が指摘するように、後背部への重量物の付加は「身体重心回りの回転トルク」を生み出すため、本研究では傾斜角度条件を併用することによって、ランニングエコノミーに及ぼす重量負荷と傾斜角度の影響を個別に検討するモデルを考えた。 その結果、下り(-5%条件)と平地条件(±0%条件)において、ランニングエコノミーと筋弾性は一義的に対応した変化を示した。さらに詳しく観察すると、ランニングエコノミーと身体重心回りの回転トルクは、統計的に有意な相関関係ではなかったが、筋弾性はランニングエコノミーと統計的に有意な相関関係を有することが明らかとなった。 これまで、ランニングエコノミーの決定因子について、スポーツ界では諸説叫ばれてきたが、未だに統一した見解は得られていない。本研究では、ヒトの陸上移動運動(ロコモーション)におけるエネルギー節約機構の一つとして、下肢協働筋群の弾性作用に注目したが、本研究の成果は、筋弾性を人工的に且つ簡便に増加させる手法として、重量負荷の後背部への配置が有効であることを示唆している。
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