研究概要 |
現存する生物のうち、直立二足運動が可能な生物はヒトだけである。しかしながら、ヒトの二足運動には、いくつかの決定的な問題点がある。たとえば重い頭部が高い位置にあるためにバランスが悪いことや、内臓諸器官など急所が多い胴体前面を常に晒してしまうこと、さらに重力の関係上、腰痛を起こし易いことなどが挙げられる。このような問題点があるにも関わらず、ヒトが直立二足運動を獲得したのは、これまで指摘されてきた欠点を凌駕するような利点があることが条件である。 最も代表的な直立二足運動である歩行動作では、身体重心を基点とした運動エネルギーと位置エネルギーの変換効率がエネルギー節約機構として機能しており、もう一つの代表的な直立二足運動である走動作では、下肢の筋腱複合体が伸張された時に蓄えられる"弾性エネルギー"が、エネルギー節約機構として機能していると説明されてきた(Cavagna et al.1963, 1964)。しかしながら、これらの説には近年いくつかの反証が投げかけられている。たとえば、Fukunaga et al.(2001)は、歩行中にもアキレス腱の伸張・短縮が発生していることを報告している。言い換えると、アキレス腱由来の弾性エネルギーは歩行中にも発生し、エネルギー消費の低減に一役買っている可能性を示唆している。本研究では、歩行および走動作における下肢筋で発揮される筋弾性の生理人類学的な意義について検討した。
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