本研究では、形質転換が困難な日本コムギ栽培品種での効率的な形質転換系の確立に同け、コムギの形質転換効率を大きく左右する遺伝子を同定することを目的としている。これまでに、形質転換実績の高い外国コムギ品種「Bobwhite」を用いた網羅的遺伝子発現解析から、形質転換における独自の改良条件(外植片の前処理、高浸透圧培地でのカルス選抜培養)により特徴的な発現挙動を示す20個の遺伝子を選定している。 平成21年度は、「Bobwhite」と形質転換の成功していない日本コムギ栽培品種「農林61号」において、選定した遺伝子の組織培養中の発現状況を解析するため、外植片の前処理と培養中の浸透圧条件の4つの組合せで、培養前の未熟胚と遺伝子導入処理を行ってから再分化培地置床直前までの培養カルスを継時的にサンプリングし、また、それぞれの条件の組合せでの不定胚形成能の評価を行った。 この結果、形質転換における独自の改良条件は、不定胚形成能が最も高くなる条件ではなく、両品種間でその程度に明確な差異が認められた。不定胚の形成は形質転換体を得るためには最低限必要であるが、「農林61号」では不定胚形成能以外の要因によっても形質転換が困難となっていることが示唆された。 平成22年度は、選定した遺伝子の培養中の発現様式および両親品種間の塩基配列多型を調査し、形質転換効率と不定胚形成能に関与する遺伝子を明らかにする。
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