これまでの研究でハスカップの胚乳を組織培養することにより、植物体を再生させる手法を開発することができた。発達段階にある胚乳を摘出し、ベンジルアミノプリン(BAP)とインドール酪酸(IBA)を培地に添加することが重要であることが分かった。この研究により、胚乳が植物体再生能を保持することが明らかとなった。さらに胚乳の持つ再生能を検証するために、胚乳の培養条件の検討を行った。クロミノウグイスカグラ(ハスカップ)とミヤマウグイスカグラの種間交雑に由来する胚乳を培養したところ、カルスを経由して不定根の再生が観察された。植物体の再生には至っていないが、種間交雑に由来する胚乳においても、形態形成能を保持することが明らかとなった。この研究により、胚乳が遺伝的可塑性を持ち、従来考えられていた栄養貯蔵器官にのみ分化するのではなく、植物体再生能を保持することが分かった。 この『胚乳の植物体再生能』のメカニズムを明らかにするために、この植物体再生は、胚乳が本来持つ分化プログラムが培養条件によって書き換えられることによって生じると仮定した。胚乳を高度に特異化させている現象としてゲノムインプリンティングに着目し、胚乳で発現するFIE(fertilization independent endosperm)遺伝子の全長をクローニングすることができた。 また、胚乳は雌性配偶子と雄性配偶子が2:1で受精して生じることから、胚乳で起きる分化プログラムにおける雄性配偶子側の寄与についても解析を進めた。以上の結果を統合し、胚乳の分化機構について考察を行った。
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