研究概要 |
元来神社が保有する樹林地や緑地は, 単に生物学的に優れた森林としてのみならず, 日本人の自然観に通じる解釈をも含む緑地空間として成立してきた背景がある。しかしながら今現在, 社寺境内はあくまでも私有地であり, 戦略的に緑地計画に組み込む視点が欠けている。今後の里山のあり方を考える上で, 里地里山地域に存在する社寺緑地に対する認識の希薄さは, 地域循環の中の物質循環が断ち切られるだけでなく, 生活文化に位置付けられた場所性をも断ち切られる可能性を含むわが国の伝統的な自然観と経験に根ざした循環型の自然共生型社会の崩壊にも通じる由々しき問題であると考えられる。以上を踏まえ本研究は, 我が国の文化及び自然環境に即した緑地評価システムの構築を行うため, '自然観を組み込んだ多義的緑地評価システム'を構築し, 本システムを用いて都市近郊の緑地を再評価・図化する事までを研究範囲とする。研究初年度である本年度は, 緑地の機能を整理分類した上で, 対象地の社寺緑地がどの機能を有するかを整理し, 都市近郊地域における社寺林の緑地としての機能面の特徴と差異を明らかにした。また, 星山を含む都市近郊林に対する社寺林の空間的位置づけとその変遷を明らかにするために, 明治初期から現在までの空中写真および高解像度衛星画像を用いて空間解析を行い, 社寺林と里山林の変遷を明らかにした。同時に, 制度上の位置づけや相互関係を把握することにより, 緑地としての空間配置上の特徴と制度上の問題点および緑地保全へ向けた改善点を明らかにした。
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