ブドウ遺伝資源94品種系統を用いて、感染14日後のブドウ黒とう病病斑径の調査を行った。その中で、42品種系統は昨年も調査しており、両調査結果の相関は0.89と非常に高かった。これは両年の調査結果がほぼ等しいことを示した。この2年間の調査を通じ、欧州ブドウ(V.vinifera)とされる品種中、パーレット、エキゾチック、瀬戸ジャイアンツなどは2年通じて比較的病斑径が小さく、一定の抵抗性を有していることが示唆された。また、ピノノワールやシラーといった醸造用のヨーロッパブドウにも比較的病斑径の小さいものが多かった。これに関し、過去の調査結果を調べたところ、川上善兵衛による古い文献においても、これら醸造用ブドウは黒とう病に耐える、との記述があり、本研究により再発見がなされたと言える。定量的な評価で、欧州ブドウに一定の抵抗性を有する品種があることを初めて示したことは、大きな意義がある。また、果樹研究所で育成保存していた25個体のブドウ母本系統を調査し、3個体がアメリカブドウ並みの強い抵抗性を有していることを明らかにした。 感染後の抵抗反応について、実体顕微鏡下での観察を行ったところ、罹病性であるヨーロッパブドウでは感染2日後に表皮細胞の陥没が観察され、すでに黒とう病菌が侵入していることが示唆された。一方、抵抗性の米国野生ブドウでは、感染2日後に、多くの場合感染部位への黒または褐色の物質の蓄積が観察されたが、これらはフェノール化合物の蓄積であると考えられた。そこで、抵抗性の品種コンコードを用いて、感染部位の切片を作成し、蛍光顕微鏡で観察したところ、青い自家蛍光を発する物質の蓄積が観察された。感染により蓄積するレスベラトロールという抗菌物質は、青色蛍光を発することが知られており、今回の結果は黒とう病感染においてもブドウ植物体がレスベラトロールを産生することを示唆している。
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