今年度は、明治・大正・昭和前期に発行された造園・園芸・建築に関連する雑誌、古写真、絵葉書、専門書等の文献資料を網羅的に収集した。特に、旧外国人居留地(函館・新潟・築地・横浜・大阪川口・神戸・長崎)に造営された洋風庭園に関する古写真や絵葉書等の画像資料を重点的に収集した。なお函館、長崎については、現地調査を実施した。調査は、函館公園(北海道函館市)、旧グラバー邸庭園(長崎県長崎市)など、明治時代前期に築造された事例を対象としている。 上記の作業を通じて、本年度は明治時代初期の洋風庭園事例の収集を重点的におこない、様式・意匠に関する特徴整理をすすめた。分析の結果、明治時代初期の洋風庭園の様式は大きく3つのタイプに類型化することができた。それらは、(1)A類:和風の庭園地割に洋風施設(パーゴラ、装飾門等)を設置するもの(築地ホテル館庭園、横浜高台英役館庭園など)、(2)B類:洋風の地割に和風施設(石灯籠等)を設置するもの(鹿鳴館庭園、函館公園、グラバー邸庭園など)、(3)C類:開放的な芝生園地を主要構成としたもの(木隈重信邸庭園、田中不二麿邸庭園など)である。これらは、建築に「擬洋風建築」が存在したのと同様に、庭園についても「擬洋風庭園」とでもいうべき、初期型スタイルとしてのプリミティブな洋風庭園があった可能性を示すものという点で成果をあげたものといえる。なお、C類については明治10年代以降に登場するものであることが判明し、明治中期以降流行する「芝庭」の先行形態とも指摘できるものである。
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