本研究は、明治・大正・昭和戦前期に築造された「近代庭園」のなかでも、庭園の欧化という意味での「近代性」が明快にみてとれる「洋風庭園」を研究対象として、明治維新後における西洋庭園のわが国への導入から、洋風庭園として様式を確立するに至るまでの経緯と過程、および洋風庭園の構成・意匠の時代的変遷に着目した空間デザインの特徴を明らかにしてゆくものである。 上記の目的により、平成23年度は、平成20~22年度までに収集した明治・大正・昭和前期に発行された造園・園芸・建築に関連する雑誌、古写真、絵葉書、専門書等の文献資料について整理・分析しつつ、近代別荘地として良く知られている神奈川県小田原市の近代庭園としての現存事例、清閑亭(旧黒田長成小田原別邸)庭園について調査をおこなった。また、石川県金沢市において、昭和初期に誕生した洋風庭園「末浄水場園地」の現地調査をおこない、行政担当者と意見交換をおこなった。また、近代の郊外住宅地に形成された洋風庭園については、特に近代造園家として著名な椎原兵市、大屋霊城、市川之雄らの庭園作品について検討をおこなった。 上記の作業を通じて、本年度は日本近代の洋風庭園の形成を通史的に整理し、東京農業大学地域環境科学部造園科学科の講義「近代造園史」のテキストを執筆し、洋風庭園を近代造園史全体において位置づけるとともに、住宅・別荘の庭園のみならず、公園や大学キャンパスに現れた洋風造園についても基礎的整理をおこなった。あわせて、当初、研究対象外としていた近代和風庭園の構成意匠や、近代に登場した造園材料であるセメント、モルタル、コンクリートについても、知見を得ることができた。
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