植物ウイルスの80%以上を占めるRNAウイルスは、その複製酵素にエラー修正能を持っておらず、複製の精度が低いため、ゲノムの変異出現率が非常に高い。植物RNAウイルスは、その高いゲノム変異出現頻度により、多くの宿主植物や媒介昆虫に適応し、その結果として多様な病原性と宿主域を確保し、その多様性を確立してきたと考えられている。本研究では植物ウイルスのゲノム複製の正確性に関した研究を行うことにより、様々な宿主への適応や病原性の獲得についての知見を得るとともに、安定した弱毒ウイルスを開発する技術の確立に向けて研究を行うこととした。 本年はまず、種々の植物RNAウイルスを収集し、そのゲノム塩基配列を決定した。その中で、asparagus virus Xはポテックスウイルス属のウイルスであり、アスパラガスに感染して軽微な病徴を示すとともに、他のウイルスと共感染して激しい病徴を引き起こす。このウイルスの塩基配列を決定したところ、ポテックスウイルスに特徴的なゲノム構造を持ち、既知のラッキョウに感染するscallion virus Xと外被タンパク質の塩基配列で81%もの高い相同性を示し、互いに同種であることが明らかとなった。このことは、本ウイルスが異なった植物を宿主とし、互いにそのゲノムに変異を蓄積させてきたことを示唆するものである。今後はこれらのウイルスを用いて様々な宿主での病原性および、ゲノム複製に関する解析を行うものとする。
|