研究概要 |
この研究の目的は,ビオトロフィック状態の時に植物寄生菌の産生するオーキシンが,宿主植物組織内で細胞レベルの変化を誘導し,菌糸の組織内伸展促進物質として作用していることを明らかにすることである.これまで,抗インドール酢酸抗体を用いた免疫組織化学的手法により,イネいもち病菌の侵入菌糸先端にオーキシンが存在する結果を得た.さらに,オーキシン応答レポーター遺伝子(DR5::GUX)を導入したイネを用いることによって,いもち病菌侵入菌糸周辺のイネ細胞がオーキシン応答していることが示唆された.本年度は,ここまでの研究結果をまとめて投稿論文として学術誌に投稿した.一方で,本年度は,細胞壁構造が緩むときに植物が発現するタンパク質エキスパンシンを標的とした免疫組織化学染色をおこなった.これは侵入菌糸がオーキシンを産生するのであれば,侵入菌糸に接するイネ細胞壁にエキスパンシンが局在するという仮説を検証するためである.ビオトロフィック状態の侵入部位のイネ葉切片を用いて反応をおこなったところ,予想に反し,侵入菌糸自体からも抗体反応が確認された.すなわち,エキスパンシン抗体に反応する抗原物質がイネいもち病菌の侵入菌糸にも存在していることを示唆している.この抗原がイネに由来するものなのか,イネいもち病菌に由来するものなのかを追求するため,現在,ビオトロフィック状態以外の条件で免疫組織化学染色を試みている.これまでの結果から,生きている宿主植物にのみ感染侵入過程が成立するビオトロフィックな植物寄生菌の侵入行動の作用の一端を示したと考えられた.
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