昆虫の外骨格は、タンパク質とキチンからなるマトリクスである。脱皮直後の柔らかい外骨格を硬くする為にラッカーゼと呼ばれる酵素が働いていることが近年明となりつつある。本研究では、ラッカーゼが不活性な前駆体として合成され、何らかの因子によって活性化きれる可能性について調べた。まず、ラッカーゼ前駆体を蛹外骨格から精製し、そのアミノ酸配列等を調べた。その結果、ラッカーゼ前駆体は他の昆虫でクローニングされていたラッカーゼ様タンパク質遺伝子の一つであるラッカーゼ2がコードするタンパク質オーソログであることが判明した。また、ラッカーゼは蛹脱皮前にほぼ発現を終えるが、活性は脱皮してから出現することも明らかとなった。おそらく、脱皮直後に何らかの活性化因子がラッカーゼ前駆体に作用して、ラッカーゼを活性化するものと思われる。また、ショウジョウバエでも同様な結果が得られた。ラッカーゼ前駆体および活性化系は、おそらく全ての昆虫に共通で、外骨格をもつ昆虫にとって欠かせないものだと考えられる。脱皮前に外骨格が柔らいことはスムーズな脱皮を保証し、かつ一旦脱皮した後は外骨格を迅速に硬化させ、外骨格機能に必要な物理的強度を得る。長い進化の過程で、昆虫がどのようにこのシステムを獲得したのかを明らかにすることが、今後の課題といえる。
|