研究課題
昆虫細胞は放射線に極めて耐性と考えられるが、その要因の詳細は不明のままである。これまでに本研究では昆虫培養細胞および重イオンビームを用い、10Gy程度の放射線を照射しても、昆虫細胞では照射の影響はほとんど認められないことを明らかにした。さらに昨年度、カイコ初期発生卵を用い、重イオン照射後の影響を槻察した結果、10Gyの重イオンを照射されたカイコ初期発生卵ではわずか2時間程度の分裂停止後、すぐに受精核の分裂が再開する事を明らかにした。そこで昨年度に引き続き、昆虫細胞への重イオン照射の影響をさらに詳細に調査した。まずカイコ初期発生卵への照射の影響を引き続き観察した。その結果、短期間の核分裂停止後、発生を再開した卵のほとんどはその後24時間以内、特に漿液膜の着色以前に致死すること、また孵化後の幼虫の致死率も高いことが判明した。さらに今後研究例を増やす必要があるものの、次世代の受精卵が発生途中で全滅する例も観察された。この様な事象は通常認められないことから重イオン照射の次世代に与える影響と言える。カイコ初期発生卵では受精後12時間までは核分裂を盛んに行い、受精核由来の遺伝子発現はほとんどないと考えられる。本研究では受精核の分裂は確認されたものの、その後致死することから、受精核の遺伝子発現の開始と共に照射卵が致死することは明らかである。よって昆虫細胞では照射により生涯を受けたDNAが完全に修復する前に、核分裂が再開することが判明した。またこれに関連して重イオン照射を用いたバイスタンダー効果に関する研究をまとめ、報告した国際雑誌に投稿・受理された。
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J Electron Microsc
巻: 59 ページ: 495-501