作物上の定着率の向上を目的に作出された飛翔能力を欠くナミテントウ系統(以下、不飛翔系統)は、難防除害虫であるアブラムシ類に対し高い防除効果が期待される。しかし、長期にわたる選抜のため近親交配がかなり進行していると予測され、近交弱勢による幼虫期の生存率の低下や成虫期の産卵数の減少、すなわち天敵の品質の低下が懸念される。したがって、このナミテントウ系統を天敵製剤として実用化するためには、長期にわたる人為選抜がナミテントウの天敵としての品質に及ぼす影響を明らかにし、品質を高い状態で維持するための管理手法を開発することが重要である。20年度は、不飛翔系統と飛翔系統(飛翔能力を持つナミテントウ系統)間でナミテントウの生存および繁殖に関わる諸形質を選抜開始から20、28、および36世代の時点で比較することによって、長期にわたる選抜の影響を明らかにした。また既存のものとは別に新たな不飛翔系統を作出し、系統間交配による雑種強勢効果について検証した。選抜開始から20世代の時点においては、孵化率は不飛翔系統の方が低かったものの、羽化率および産卵数は不飛翔系統と飛翔系統との間に差は見られなかった。しかし、28世代および36世代の時点においては、これら全ての形質において不飛翔系統のものは飛翔系統のものよりも低下していた。これらの結果は、長期にわたる飛翔能力に対する人為選抜はナミテントウにおける生存および繁殖に負の影響をもたらすことを示唆する。ナミテントウの品質維持管理法を確立するため、既存の系統と同様の選抜手法を用いて、新たに4つの不飛翔系統を作出した。そのうちの1つの系統と既存の系統を交配させたところ、選抜の影響によって低下していた孵化率、羽化率、および産卵数は回復した。一方で、その効果の程度は、系統および雌雄の組み合わせの違いによって異なる可能性が示唆された。
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