本研究の目的は、蛾類昆虫の性決定機構を明らかにし、蛾類昆虫の性決定遺伝子を標的とした害虫防除法を開発することにある。このため本研究では、カイコの性決定遺伝子であるBmdsxの性特異的スプライシング制御因子の同定を目指したいくつかの実験計画を立てている。平成20年度は、Badsxの性特異的スプライシング制御に関わる性特異的因子の同定を試みた。Bmdsxのオス型のスプライシングに必須のシスエレメントCE1をリガンドに用いたaffinity chromatographyを行い、CE1に結合する性特異的因子を探索した結果、オス特異的に存在する分子量約55kDaのタンパク質を精製することが出来た。このオス特異的タンパク質(仮称MSP55)の内部アミノ酸配列を解析した結果、既にBmdsxの性特異的スプライシング制御因子の1つとして同定されているBmPSIと同様、RNA結合ドメインとして知られるKhomology(KH)ドメインを4つ持つことがわかった。MSP55をコードする遺伝子はZ染色体に座乗しており、様々な組織においてオス特異的に発現していることがRT-PCRの結果明らかとなった。RNAiによってオス細胞(NIAS-Bm-M1細胞)におけるMSP55の発現を抑制すると、Bmdsxのメス型のスプライシング産物の量が増加することがわかった。また、リコンビナントMSP55を用いたRNAゲルシフトアッセイの結果、MSP55はCE1に特異的に結合することが確認された。抗BmPSI抗体を用いた免疫沈降実験の結果、MSP55はBmPSIと共に共沈することがわかうた。以上の実験結果より、MSP55はBmPSIと相互作用し、CE1に結合することでBmdsxのオス型のスプライシングを制御していると予想された。
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