本研究では、カイコの性決定遺伝子であるBmdsxの性特異的スプライシング制御因子の同定を目指したいくつかの実験計画を立てている。キイロショウジョウバエのtra2はメス分化に必須の遺伝子であり、dsxのメス型のスプライシングを誘導する。一方、Bmtra2はキイロショウジョウバエのtra2のホモログとして同定された遺伝子であるが、その機能については明らかにされていない。そこで、本研究ではBmtra2がBmdsxの性特異的スプライシングに関与するか否かを調べることにした。雌雄の培養細胞でBmtra2の発現をRNAiによってノックダウンし、RNAを回収後RT-PCRを行うことよってBmdsxのスプライシングパターンを確認した結果、雌雄ともにBmdsxのスプライシングに影響はなかった。しかし、メスの細胞にキイロショウジョウバエのdsxミニ遺伝子を導入した実験から、Bmtra2はdsxのメス型のスプライシングを誘導する働きを持つことが分かった。蛹化0~1日目のメスの蛹にBmtra2のdsRNAを注射したところ、その個体は内部・外部生殖器に異常は見られず、正常に交尾・産卵したが、孵化率はコントロールよりも、10μg注射した場合は約50%低下し、20μg注射した場合は約90%低下した。以上の結果は、Bmtra2はキイロショウジョウバエのdsxのメス型のスプライシングを誘導できるにもかかわらず、カイコのdsxのスプライシングには関与していないことを示唆している。また、Bmtra2はカイコの胚発生に必要な遺伝子であると考えられる。
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