研究概要 |
ショウジョウバエと、その共生細菌で「雄殺し」という生殖操作をおこなうスピロプラズマからなる共生系をモデル実験系とし、共生関連遺伝子とその機能を明らかにすることを目的に研究をおこなった。雄殺し能力や宿主の異なる4系統のスピロプラズマ(Drosophila nebulosa由来の雄殺しスピロプラズマNSRO系統、NSRO系統の突然変異体で雄を殺さないNSRO-A系統、キイロショウジョウバエD.melanogaster由来の雄殺しスピロプラズマMSRO系統、カスリショウジョウバエD.hydei由来の雄を殺さないスピロプラズマ系統)に感染したショウジョウバエからファージゲノムの精製を試み、カスリショウジョウバエのスピロプラズマを除く3系統のファージゲノムDNAの精製に成功した。制限酵素処理断片の泳動像等から、それぞれサイズは20kb前後であると推定された。次に、NSROとNSRO-Aのファージゲノムのショットガンシーケンスをおこなった。完全長ゲノムの決定には至らなかったが、NSROのファージについては7つの断片配列、のべ15,776bpの塩基配列を、NSRO-Aのファージについては9つの断片配列、のべ12,707bpの塩基配列を得ることができた。相同性検索の結果、それぞれ少なくとも24および15の遺伝子が含まれており、Spiroplasma citriの遺伝子と高い相同性を示した。特徴としては、S.citriにおいて宿主昆虫との相互作用に関わると考えられているP58遺伝子ファミリーが含まれており、これらのファージが共生において何らかの役割を担っている可能性が示唆された。また、宿主の免疫機構について調べたところ、NSROは宿主の抗菌タンパク質遺伝子の発現を誘導も抑制もしないこと、抗菌タンパク質が産生されても増殖可能なことなどを明らかにし、宿主免疫の回避機構についての理解が深まった。
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