本研究は、東南アジアにおける生物的防除資材としてのハナカメムシ類の探索と、それらの簡易的な同定法の構築をめざすことにより、生物的防除への方途を開こうとするものである。初年度は入念な資料収集に重点を置き、10月下旬と1月下旬にそれぞれ2週間程度、タイにおいて調査を行った。その結果、約5000個体の半翅類昆虫が採集され、そのうち約1200個体のハナカメムシ類を得た。主な実績は以下の通りである。1.タイ中部のSuphanburiおよび北東部のSaraburiにおける耕作地で、マンゴーの花からヒメハナカメムシ属Oriusの種を多数得た。それらには少なくとも3種以上が含まれており、現在、種の確定を行っている。同時に微小なアザミウマ類が多く得られたことから、おそらくそれらを捕食しているものと考えられる。2.Nakhon RatchasimaおよびSaraburiの耕作地周辺の木本類(チークやオオバギ類など)から、Wollastoniella属の3種(W.rotunda・W.parvicuneis・W.sp)を得た。W.rotundaとW.parvicuneisは、ミナミキイロアザミウマの有効な天敵として著名である。コナジラミやキジラミ、ヒメヨコバイも発生していたため捕食対象となっている可能性が高い。3.Suphanburiの人家周辺の露地栽培にて、堆積された稲藁からXylocoris cerealisとX.sp.(未記載種)を採集した。X.cerealisはタイの精米所でしか見つかっておらず、そこで貯穀害虫を捕食することが知られているため、野外における発見は興味深い。それらの環境には、双翅類や鱗翅類の幼虫、甲虫類、トビムシ類が豊富であった。ハナカメムシ以外で天敵として期待できるのがカスミカメムシ類であるが、今回得られた有益な捕食性カスミカメムシ類として、以下の種が挙げられる。いずれも個体数が多く、過去に報告例がある。(括弧内は捕食対象種):Deraeocoris sp.(マメ科のキジラミ)、Termatophylum sp.(アザミウマ等)、Stethoconus praefectus(グンバイムシ類)、Zanchius spp.(キジラミ・ヨコバイ)、Engitatus? sp.(コナジラミ類)、Campylomma spp.(アザミウマ・アブラムシ)、Pilophorus spp.(アザミウマ等)。なお、成果の一部は3編の論文に公表済みである。
|