本研究は、東南アジアにおける生物的防除資材としてのハナカメムシ類の探索と、それらの簡易的な同定法の構築をめざすことで、生物的防除研究への基礎資料を提出しようとするものである。2年目である本年度は、前年度の実績に基づきタイにおける徹底した資料収集と生態情報の蓄積をめざした。また、前年度とは調査の時期を変え、6月中旬と3月中~下旬に実施することで各種ハナカメムシ類の発生動態を把握することも目的とした。現地調査においては、ナコーン・ラチャシマのSakaerat Environmental Research Stationの協力を得て貯蔵穀物所での調査を行い、さらにスラナリ工科大学の協力を得て大学構内の有機栽培農園にて調査を行った。その結果、貯蔵穀物所では有力天敵として知られるXylocoris flavipesが大量に発生していることを確認した。施設内には貯穀害虫である甲虫類や鱗翅類もいたが、それらの個体群抑制に働いていると考えられる。有機栽培農園では、個体数は少なかったもののマメ科植物の花からヒメハナカメムシ類の未記載種を得た。その他の主な実績は以下の通りである。1.タイ中部のNakhon NayokにてMollastoniella属の3種をオオバギ類から採集した。これらは昨年度(10月と1月)の調査でも得られており、年間を通じて安定した発生をしていることが分かった。2.バンコク近郊のSamut Prakanにてガジュマル類からMontandoniola属の種を得た。アザミウマ類を捕食するグループで、ゴール中からアザミウマ類と共に見出された。少なくとも2種混ざっており、現在分析中である。3.タイ中・北東部の耕作地にてミナミヒメハナカメムシOrius tantillusを多数採集した。畦畔に自生しているヒエなどのイネ科草本から多数見つかり、微小なアザミウマ類を捕食すると考えられる。ハナカメムシ類以外では、天敵資材となりうる捕食性のカスミカメムシ類もいくつか確認できた(括弧内は捕食対象種):Orthotylus spp.(鱗翅類幼虫)Pilophorus typicus(アザミウマ・ハダニなど)、Campylomma lividieorne (アザミウマ・アブラムシ)。これらの成果の一部は、投稿中のものを含めて7編の論文にまとめた。
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