研究概要 |
酢酸菌の酸化発酵は, 酸化反応産物をほぼ定量的に蓄積するユニークな代謝系であるが, その反応は呼吸鎖に組み込まれており, 物質の酸化に共役して生体エネルギー(プロトン駆動力)を産生する。本研究課題では, 酢酸菌による酸化発酵生産とエネルギー代謝の関連を解析する。プロトン駆動力を回転エネルギーに変換するべん毛モーターは, エネルギー状態を調節する手段として魅力的な生体装置である。この解析を通して, エネルギー代謝と発酵生産の関連についての理解を深め, 代謝工学の発展に貢献したい。単に物質変換を担う酵素を操作する古典的な代謝工学から, 生体エネルギーなどの細胞生理を見通した代謝工学へと発展させたい。平成20年度は以下のように研究を進めた。 本菌のべん毛運動は, グルコースやエタノールなどの特定の酸化基質の存在下に誘導された。本菌が営む酸化発酵が好気的であることに関連して, 培養時の通気条件と運動観察時の通気条件を検討した。培養器に対する培地の容積を変え培養したところ, 培地が多くなる(通気が悪くなる)ほど培養初期から活発に運動した。一方顕微鏡下では気液界面でのみ遊泳したので, 運動自身は高度に酸素を要求していることが示唆された。低酸素条件ではべん毛運動が誘導され, 酸素を求めて運動するのかもしれない。また, 抗体を作製して分子レベルの研究へと展開させるために, 菌体からべん毛繊維を精製した。以上のように, 運動能に関しての基礎データーを集めることができた。これらを基に解析を進めるとともに, 分子レベルの解析も進めて2年目以降の研究を発展させたい。
|