tRNase Zは真核生物、古細菌、一部の真正細菌においてtRNAの3'端プロセシングに関与するendoribonucleaseで、前駆体tRNAの3'伸長配列をdiscriminator塩基で切断する酵素である。様々な生物種のtRNase Z活性がin vitroで証明されたが、in vivo解析はほとんど行われておらず、tRNase Zの生理学的意義、機能を正確に把握するためにはin vivo解析が必須課題である。大腸菌では、全てのtRNA遺伝子にCCA配列がコードされていて、主に複数のexoribonucleaseが3'プロセシングに関与している。大腸菌tRNase Zはin vitroでCCA配列を持たない前駆体tRNAを切断する活性を持つが、生育に必須ではなく、その生体内における役割については全くわかっていない。そこで我々は大腸菌tRNase Zの生体内における役割を解明することを目的として様々な解析をおこなった。E.colit RNase Zは、in vitroにおいて前駆体tRNAだけでなく、成熟tRNAも効率よく切断した。また、大腸菌内でtRNase Zを過剰発現させたとき生育が悪くなった。ノーザン解析の結果、これはtRNAの3'末端が欠けたため、生育に必要な機能するtRNAが減少したためであると考えられた。増殖中の大腸菌内のtRNAはほとんどがアミノアシル化されていることから、アミノアシルtRNAがtRNase Zの基質となっていることが推測された。実際に、in vitro及びin vivoにおいて大腸菌tRNase ZがアミノアシルtRNAをCCA配列の内部で切断することが示唆された。これらの結果は、大腸菌tRNase ZがアミノアシルtRNAの3'末端配列を切断し、アミノアシルtRNAからアミノ酸を除去することにより翻訳を制御するという新たな遺伝子発現調節機構の存在を示唆している。
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