グルコーストランスポーターGlcPをコードする遺伝子(glcP)は、ネオトレハロサジアミン(NTD)生合成遺伝子(ntdABC)の下流に存在し、ntdABCと共発現するとともにntdABCプロモーターを負に制御していることから、NTD生合成経路はGlcPを介して枯草菌のカタボライト制御機構に関与している可能性がある。そこで、GlcP遺伝子欠損によってNTDを過剰生産する変異株を作製し、マイクロアレイによる網羅的転写解析を行った。その結果、ntdABCの他、alsSD(アセトイン合成遺伝子)、maeN(リンゴ酸トランスポーター)、licBCAH(リケナントランスポーター)など13遺伝子の発現が著しく変化してることが判明した。これら遺伝子発現の変化は、定量リアルタイムPCRおよびレポーター遺伝子を用いた解析でも確認できた。さらに、glcP遺伝子の発現をIPTGで誘導することができるBlcP誘導株を作製したところ、glcP非誘導条件ではglcP欠損と同様の効果を観察する事ができた。このglcP誘導株のNTD生合成遺伝子を欠損させたところ、glcP非誘導時に観察された影響は認められなかった。また、この株に精製したNTDを培地に添加してもglcP非誘導に伴う遺伝子発現の効果は回復しないことから、glcP欠損によって起こる遺伝子発現の変化は、NTDの過剰生産により引き起こされているものと考えられた。 本研究によりNTDの過剰生産がアセトイン合成経路を低下させるという新事実を見い出すことができた。アセトインは発酵の過程で生じる不快臭の原因物質であり、本研究成果は納豆発酵における臭気改善に役立てる事ができる。
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