本研究課題では、結核菌における特異なポリリン酸利用能の解析を進める目的で、ポリリン酸に関わる新規遺伝子・タンパク質の同定とその機能解析を主に行っている。本年度は、ポリリン酸に関連するタンパク質として、結核菌のゲノム上に存在する機能未知遺伝子であるRv2613c遺伝子がコードするタンパク質について、大量発現株の構築、精製、及び詳細な酵素機能の解析を行った。その結果、本タンパク質はモチーフ解析等から予想されていた加水分解活性ではなく、加リン酸分解活性をdiadenosine tetraphosphate (Ap4A)等のヌクレオチドに対して示すことが明らかとなった。従って、本タンパク質は結核菌由来の新規Ap4A加リン酸分解酵素であった。種々のdinucleoside polyphosphateを基質として利用し、リン酸の鎖長は4または5が最適であった。速度論的解析の結果、Ap4Aに対するKm値は0.10 mMであり、リン酸に対するKm値は0.94 mMであった。本酵素の活性発現には2価の金属イオンが必須であり、特にマンガン存在下で著しい活性を示した。至適pHは8.0、至適温度は30℃であり、65℃10分の処理によってその活性は完全に失われた。これまでに報告されている酵母由来のAp4A加リン酸分解酵素と比較した場合、本酵素は至適pHや至適温度については類似していたものの、一次配列上のアミノ酸残基数が少なく、加リン酸分解反応の逆反応を触媒しない等の特徴を有していた。本酵素のさらに詳細な解析のため、X線結晶構造解析に着手した。これまでに、構造決定に適した結晶を作成し、その結晶学的諸性質を決定した。今後は本酵素の構造解析を進めるとともに、結核菌内での生理的な役割についても解析を行う予定である。
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