本研究課題では、結核菌における特異なポリリン酸利用能の解析を進める目的で、ポリリン酸に関わる新規遺伝子・タンパク質の同定とその機能解析を行っている。昨年度までに、結核菌由来Rv2613cタンパク質の詳細な酵素学的機能の解析を行い、本タンパク質がモチーフ解析等から予想されていた加水分解活性ではなく、加リン酸分解活性をdiadenosine tetraphosphate (Ap_4A)等のヌクレオチドに対して示す、新規Ap_4A加リン酸分解酵素であること明らかにした。本年度は、本酵素のX線結晶構造解析を進め、セレノメチオニン誘導体を用いた単波長異常散乱法を利用することにより、その立体構造を決定した。その結果、本酵素はC末端側にα/βからなるドメイン構造を有しており、そのドメイン中に活性中心部位と考えられる部分が存在していることを明らかにした。本酵系の立体構造について、これまでに報告されているヌクレオチド加水分解酵系の立体構造と比較したところ、活性に重要なα/βドメイン構造は非常に良く類似しているが、活性中心部位に存在する複数のアミノ酸残基の種類が異なっていることが示された。そこで、アミノ酸残基の種類を置換した変異株を作製して活性を測定した結果、それらのアミノ酸残基は本酵素の活性発現に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに、本研究で活性に関与していることを特定したアミノ酸残基は、他の生物種由来Ap_4A加リン酸分解酵素においても高度に保存されていることから、Ap_4A加リン酸分解酵素の活性発現に重要な役割を果たしているアミノ酸残基であることが示唆された。
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