本研究課題では、結核菌における特異なポリリン酸利用能の解析を進める目的で、ポリリン酸に関わる結核菌由来新規遺伝子・タンパク質の同定とその機能解析を行っている。昨年度までに、結核菌由来新規diadenosine tetraphosphate(Ap_4A)加リン酸分解酵素の詳細な酵素機能を明らかにするとともに、その立体構造を決定した。本年度は、さらに詳細な構造と機能の相関解析を行い、本酵素が特異的な基質結合部位を形成していることを示した。 本酵素は他のAp_4Aを基質として利用する酵素とは異なり、4量体を形成して活性を示すことをこれまでに明らかにしてきた。今回、立体構造を基に本酵素の基質結合部位を推測したところ、その特異的な4量体構造が基質結合部位の形成に必要であることが示唆された。また、変異体を用いた解析から、予測した基質結合部位に存在するTrp-160残基が活性の発現に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、活性中心部位に存在しているループ構造について、本酵素と他のAp_4Aを基質とする酵素とを比較したところ、本酵素のループ構造は1残基分長いことが示された。変異体の解析から、このループ構造の特徴が基質特異性に関与していることが示唆された。このように本酵素は、他のAp_4Aを基質として利用する酵素とは異なる、特異的な基質結合部位や活性中心部位の構造を持つことが示された。そのため、本酵素の活性を特異的に阻害する新規化合物のデザインが可能であることが予想された。これまでの報告から、本酵素は結核菌の生育能に関与していることが示唆されていることから、そのような新規阻害剤のデザインは新規抗結核薬の開発につながることが期待される。
|