本研究課題では、結核菌が有する特異なポリリン酸利用能の解析を目的としてポリリン酸に関わる結核菌由来新規遺伝子・タンパク質の同定とその機能の解析を行うとともに、新規抗結核薬の開発を目指して本研究で得られた結果を用いた応用研究を進めている。昨年度までに、結核菌由来新規diadenosine tetraphosphate(Ap_4A)加リン酸分解酵素(Rv2613c)の詳細な酵素学的諸性質と立体構造を決定するとともに機能構造相関解析を行い、Rv2613cに特異的な4量体構造が活性の発現には必須であることを明らかにした。本年度は、Rv2613cが基質であるAp_4Aに対して加水分解活性ではなく加リン酸分解活性を示すために重要なアミノ酸残基を特定するとともに、Rv2613cの活性を特異的に阻害する化合物の候補を見いだした。 アミノ酸配列と立体構造のアライメント解析より、活性中心部位近傍に位置しているアミノ酸残基がRv2613cではGly残基(Gly-146残基)であるのに対して、加水分解酵素ではGln残基であることが示された。そこで、このGly-146残基をGln残基に置換したところ、Rv2613cは基質であるAp_4Aに対して加水分解活性を示すようになった。従って、このGly-146残基はRv2613cにおける加リン酸分解反応を規定している重要なアミノ酸残基であることが明らかとなった。また、Rv2613cの立体構造情報に基づいたバーチャルスクリーニングを行い、Rv2613cの活性を特異的に阻害する化合物の候補を探索した。約50万種類の化合物データベースを用いてスクリーニング解析を行ったところ、10種類の化合物が候補として選ばれた。活性測定の結果より、これらの候補化合物はRv2613cに対して阻害活性を示すことが明らかとなった。
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