寒冷地に自生するザゼンソウは、開花後1-2週間にわたり生殖器官である肉穂花序で発熱することが知られている。多くの植物において見出されている凍結耐性誘導型の低温ストレス回避機構とは異なり、ザゼンソウは発熱することにより低温ストレスを回避していると考えられている。本研究では、ザゼンソウの低温応答遺伝子群を同定して、モデル植物シロイヌナズナ等ですでに報告されている低温応答遺伝子群との比較解析を行うことにより、両者の共通点および相違点を探ることを目的としている。 当該年度はまず、発熱するザゼンソウ花序の低温誘導前後のサンプルから調製した26bpのSuperSAGEタグと本植物花序のESTライブラリーとのアノテーションを行い、シロイヌナズナ等の他のモデル植物におけるタグデータベースとの比較解析を行った。その結果、ザゼンソウでは低温誘導前後に関係なく、ミトコンドリアの生合成や呼吸機能に関わる遺伝子群の発現レベルが高くなっていることが明らかとなった。一方で、生化学および形態学的な手法により、ザゼンソウの発熱組織では呼吸機能の活発なミトコンドリアが豊富に含まれていることが明らかとなり、この特徴は近縁種であり発熱しないミズバショウと比べても顕著であった。以上の結果から、ザゼンソウの発熱組織はミトコンドリア機能を活発に動作させるための堅固な生体システムを構築していることが示唆された。現在、低温誘導前後で発現パターンの変動する遺伝子群を抽出する作業に着手しており、他植物における低温応答遺伝子群との相違について検討を進めている。
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