好冷菌産生酵素が有する低温での高い活性の発現能(低温活性発現能)にとって、触媒部位に位置する求核基が、低温から常温における触媒反応時に効率よく基質分子に作用することが重要である。多くの加水分解酵素では、求核攻撃を担う求核基は、補因子である金属イオンにより脱プロトン化されたOH^-分子であり、基質に対する求核攻撃に適した空間に配置されている。その適切な空間配置は金属イオンの種類に支配されると考えられ、その金属を配位させる機構が低温活性発現能を導く"環境的要因"であると考えられる。そこで、本研究では、好冷菌Shewanella sp.が産生し、その触媒部位中に2個の金属を配位している、低温活性金属酵素Cold-active protein tyrosine phosphataseに着目した。平成20年度には、配位金属をMgイオンに置換したMg型酵素を作成し、その機能特性をZn型酵素と比較することを計画した。Mg型酵素を作製するために、大腸菌で封入体として発現した蛋白質を、100mM MgCl_2を含む緩衝液中において再生させることで調製した。その酵素学的特性を大腸菌で発現した酵素[Zn型酵素]のそれと比較したところ、Mg型酵素の反応最適温度(30℃)がZn型酵素のそれ(50℃)より低温側にシフトしており、低温域での触媒反応効率がZn型酵素に比べて高いこと、また、Mg型酵素の熱安定性がより低いことを明らかとした。このことから、本酵素の低温活性発現能には配位金属種がより"軽い"Mgイオンであることが重要であると考えられた。構造解析に必須となる、Mg型酵素の結晶化に成功しており、現在、SPring8を用い決定した構造とZn型酵素の構造との比較解析を行うことで金属置換によって柔軟性が変動した領域即ち低温活性発現能に直接関与する領域を特定しつつある。
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