研究課題
好冷菌産生酵素の低温での高い活性の発現能(低温活性発現能)にとって、触媒部位に位置する求核基が、低温から常温における触媒反応時に効率よく基質分子に作用することが重要である。多くの加水分解酵素では、求核攻撃を担う求核基は補因子である金属イオンにより脱プロトン化されたOH^-分子であり、基質に対する求核攻撃に適した空間に配置されている。その適切な空間配置は金属イオンの種類に支配されると考えられ、その金属を配位させる機構が低温活性発現能を導く"環境的要因"であると考えられる。本研究では,好冷菌Shewanella sp.が産生し、触媒部位中に2個の金属を配位しているCold-active phosphataseに着目した。平成21年度には、(1)配位金属をMgイオンに置換したMg型酵素の構造特性をZn型酵素と構造を比較すること、(2) Shewanella sp.における金属濃度環境を制御する因子(金属輸送蛋白質など)の探索を試みた。(1)については、Mg型酵素の構造モデルを分解能1.3Åで決定した。決定した構造とZn型酵素の構造との比較解析を行うことで金属置換によって柔軟性が変動した領域が分子表面から触媒部位近傍構造までつながっていることを明示した。柔軟性の高い領域の分布から、Mg型酵素では、低温において低下した溶媒の分子運動が効率よく触媒部位に伝達されることで低温活性発現が可能となると示唆した。(2)に関しては、海水に含まれる2価イオンの存在・非存在下で培養したShewanella sp.で発現している蛋白質を2次元電気泳動法で比較した。その結果、2価金属イオンが培地中に海水濃度で存在することによって、2種の塩基性蛋白質(約20kD)の発現誘導を確認した。現在、これらの蛋白質をアミノ酸配列分析によって同定し、低温活性酵素の低温環境適応能に対する"環境的要因"との相関を確認しつつある。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 74
ページ: 69-74