ペプチドには単体のアミノ酸には無い優れた機能を有し、中でもD-アミノ酸を含有するペプチド(D-ペプチド)の特異な生理活性も徐々に明らかとなりつつある。本研究では、その効率的なD-ペプチド合成法の確立を目指し、D-アミノペプチダーゼを対象に、高機能型D-ペプチド合成酵素を創製する。 これまでに単離、同定された放線菌由来の2種類のセリン型D-アミノペプチダーゼのリコンビナント酵素(大腸菌発現系より生産)を対象に、機能の詳細な解析及び有用ジペプチド合成への可能性を検証した。その結果、両酵素ともに加水分解活性及びアミノリシス活性が認められたが、一方は非常に加水分解活性が高く、中程度のアミノリシス活性を示した。もう一方の酵素は、加水分解活性が低く、それと対称にアミノリシス活性が高いことが明らかとなり、後者の酵素がペプチド合成に適していた。そこで、この加水分解活性を決める領域を同定するため、両酵素のキメラを構築し、キメラ酵素における加水分解活性とアミノリシス活性の詳細を野生型と比較した。その結果、これらの酵素の活性中心は前半部位に存在していることは、既に明らかとされていたが、加水分解活性の強さを決める領域は酵素構造上の後半に位置することが明らかとなった(伊藤ら・日本農芸化学会大会2010.3.28(東京))。また、有用ジペプチド合成への可能性を検証した結果、両酵素ともにD-ProをN末に持つジペプチドの合成能に長けており、L-Argと組み合わせることで、キチナーゼ阻害剤であるシクロ(D-Pro-L-Arg)の高収率な1ポット合成に成功した(有馬ら・日本農芸化学会大会2010.3.28(東京)、特許出願:特願2010-015713)。今後は、このセリン型D-アミノペプチダーゼを対象に、更にアミノリシス活性をあげるべく、タンパク質工学的手法を駆使して、酵素機能の改変を行っていく予定である。
|