研究概要 |
ササラダニ類からプミリオトキシン237Aをはじめとする多くの矢毒蛙アルカロイドが同定されて以来,ササラダニ類は矢毒蛙アルカロイドの起源生物として強く疑われている.ササラダニはそれらアルカロイド類を利用して,昆虫や土壌生物などの捕食者に対して化学防御していると考えられる.ササラダニの防御物質を探索する中で,タテイレコダニ科ダニ10種が共通して比較的大量に分泌するイリドイド類のジアール化合物を新たに検出した.本化合物はハムシの防御物質として知られるが,その類縁体はクサカゲロウの誘引物質,カミキリムシやナナフシの防御物質,アルゼンチンアリのバイタルサインなどの生物活性が報告されている.そこで本研究では,タテイレコダニ科ダニ由来イリドイドの,アリなど捕食者に対する忌避活性に加え,未知の生物機能を解明するため,まず天然物の絶対立体配置を決定することを目的として合成を行った.シトラールを出発原料として数段階でジアール体の立体異性体混合物を合成し,天然物とGC保持時間,マススペクトルの比較を行い,相対立体配置を決定した.次に絶対立体配置を決定するため,シクロペンテノンとシリルケテンアセタールを原料として,ビスオキサゾリンと銅の不斉リガンドを用いた向山-Michael反応で,エナンチオ選択的にアルキルエステル側鎖を導入した.そのあと,エノールエステルを経て数段階でイリドイド骨格をもつジオール体に誘導した.別途調製したラセミ体はGCキラルカラムで分離可能であったため,天然物を還元してジオールに誘導し絶対立体配置を決定した.現在,ジオールを酸化して調製したジアールのエナンチオマーとラセミ体を用いて,アリやムカデなど捕食者に対する忌避効果およびフェロモンなどの生物活性を多角的に検討している.
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