昨年度に獲得した酸味受容体候補PKD1L3とPKD2L1の遺伝子破壊(KO)マウスに関しては、それぞれのホモ変異マウスと二重ホモ変異マウスを用いて、酸味物質を含む様々な味物質を投与した際の味神経(鼓索神経と舌咽神経)の電気応答を記録する味神経応答解析を行った。その結果、PKD2L1ホモ変異マウスと二重ホモ変異マウスでは、クエン酸、塩酸、酢酸に対する鼓索神経応答が、神経束全体と単一神経繊維の両方の場合で、野生型マウスと比較して有意に抑制されたのに対して、PKD1L3ホモ変異マウスでは酸刺激応答が野生型マウスと同様に観察された。これは、鼓索神経が投射する茸状乳頭と口蓋の味蕾における両遺伝子の発現の有無を反映していると考えられる。一方、味神経以外の体性感覚神経などを鼓索神経よりも多く含む舌咽神経では、いずれの変異マウスでも野生型マウスと同様の酸刺激に対する応答を示した。さらに、塩味、甘味、苦味、うま味物質に対しては、鼓索神経と舌咽神経の両方で、いずれの変異マウスも野生型と同様の応答を示した。以上の実験結果から、少なくともPKD2L1に関しては、生体内で実際に酸味受容体として機能することが実証された。 ヒト酸味受容体に関しては、カルシウムイメージング法を用いた機能解析において、クエン酸など酸味物質投与に対してオフ応答を示す機能的なPKD1L3のN末端細胞外領域とPKD2L1の全長領域を昨年度までに同定していた。N末端細胞外領域がヒト由来でそれ以降はマウス由来のキメラPKD1L3を、ヒトPKD2L1と共にHEK293細胞に発現させた場合、酸味を甘味に変える味覚修飾物質クルクリゴ果実抽出物存在下でも酸刺激に対する応答が観察された。この実験結果から酸味抑制機構としては、PKD1L3のN末端細胞外領域以外の領域に対して作用するか、あるいは、味覚受容体レベルではなく、味細胞や神経レベルで抑制される可能性が考えられる。
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